妊娠中、歯が悪くなる人が多いということは実際広く聞かれることです。
とはいっても、歯槽膿漏が出産に悪影響を与えるなどとはにわかに信じ難い話かもしれません。
しかしながら90年代以降、各国の研究で、歯槽膿漏の原因である歯周病菌と胎児の成長について、因果関係が存在することが報告されているのです。
まずは、妊娠性歯肉炎のお話からします。一般的に、妊娠すると女性ホルモンが増えることで歯肉炎にかかりやすくなるといわれています。
なぜ、女性ホルモンが増えると、歯肉炎になりやすくなるのでしょう?
これは女性ホルモン、特にエストロゲンという女性ホルモンが歯周病原細菌の増殖を促し、また、歯肉を形作る細胞がエストロゲンの標的となるためだといわれています。
そのほか、プロゲステロンというホルモンは炎症の元であるプロスタグランジンを刺激します。
これらのホルモンは妊娠終期には月経時の10~30倍になるといわれており、特に妊娠中期から後期にかけて妊娠性歯肉炎が起こりやすくなるのです。
ただ、プラークのない清潔な口の中では起こらないか、起こっても軽度ですみますので、妊娠中は特に気をつけてお口の清潔を保ちましょう。
低体重児(低出生体重児/ていしゅっせいたいじゅうじ)とは、出生時に体重が2,500g未満の新生児のことを言います。
大きく分けて、
●母親のお腹の中にいる時間が37週未満で、早産のために出生体重が小さくなる場合
●母親の子宮内で赤ちゃんがうまく育たず、子宮内発育制限のために出生体重が小さくなる場合
があります。
前者と低出生体重児との関係でいえば、歯周病が進行して、炎症が強くなると、歯周組織中の”プロスタグランディンE2(PGE2)”という物質が増えることがわかっています。
歯周病にかかった歯周組織が作り出す“プロスタグランディンE2”は、陣痛促進剤として使われているもので、(つまり、陣痛促進剤を自らの体内で作り出してしまっていることを意味します)歯周病が重度になればなるほど、羊膜腔、胎盤膜に作用して、子宮を収縮させたり、子宮頚部の拡張を促したりして出産を促進する作用があるため、早産を引き起こすリスクが高まります。
また、早産の主な原因として最も挙げられるのは、前期破水と呼ばれる症状です。
前期破水とは、陣痛がまだ起こっていない段階で卵膜が破れ、羊水が子宮外に流れ出ることをいいます。
胎児が子宮外で自立して生存する力を得る前の早産時期に破水が起こると、胎児は、子宮頸管と腟を介して外界と直接に接することになり、感染の危険が生じることになります。
そしてそうなった場合、ほとんどが破水後、短時間のうちに自然陣痛が始まることになります。
このため、早産時期の破水は未熟な子の出生という深刻な結果をもたらします。
前期破水の原因としては、妊婦の健康状態や喫煙習慣、多胎妊娠頸管無力症、妊娠中毒症などが挙げられますが、近年、歯周病が影響を及ぼすという報告があります。
(絵図出典:医学情報社 歯周病と全身の健康-健康はまず口から-より)
また、妊娠中はつわりで食事や歯磨きが不十分になったりする上、胎盤で作られるホルモンが歯周病菌を増殖しやすくするため、歯周病が悪化しやすいという事実があります。
つまり、歯周病は早産や低体重児出産のリスクが高まるにもかかわらず、妊娠中は歯周病が悪化しやすいという深刻な問題があります。
これから母親になる方は、歯科医院で診察を受けて、歯周病がある場合は妊娠の前に治療されることが大事です。
また、妊娠中であってもお口をきれいに保つことを怠らないようにしましょう。